
療育から関わってきたPDD児の場合、学習障害を合併していることは、しばしば見られます。



以下に、それぞれに対する指導について述べます。



数を序数としては把握できるが、集合として捉えられない子どもが目につきます。この場合、生活の中で、量、お金など、集合として捉えるための体験をさせることはとても大切です。しかし、それを体験させたからといって、すぐに集合としてわかっていくわけではありません。しかし、小学校では、足し算や引き算がすぐに始まっていきます。従って、一方で、数の操作を学習していってもらう必要があります。
このタイプの子どもに対しては、1から10のドッツの数を、数えずにいくつかを答えられるように訓練します。1から5で折り返して、2行で10のドッツカード、ドッツプリントを使います。10までの数を量として把握することが苦手ですから、1から10までの形を頭に焼き付けることで、量の操作をできるようにするのです。それができるようになったら、数の分解と合成をたっぷりします。ここまでの過程に、焦らず、たっぷりと時間をかけます。そうしたら、足し算引き算がすいすいできるようになります。
量として数を操作できる子どもは、指を使う計算を教えても、そのうち、自然に、量として操作するようになります。しかし、このタイプの子どもたちは、指で教えれば、そのままずっと指で計算します。中学3年生で指で計算する子どもに、量として操作する計算を教えることは、現実的に不可能です。だから、このタイプの子どもたちには、指を折って計算する方法は、教えない方がよいです。
その後、繰り上がり、繰り下がりのやり方も丁寧に教えて、100ます計算で鍛えて行けば、その後の算数の授業で、計算に困ることはありません。途中、できるようになったと思って、しばらくさせないでおくと、全くできなくなったりもします。元々、量の操作として理解しているわけではないので、しばらくは油断してはいけません。

拾い読みからなかなか進歩しない子どもによく出会います。でも、この読みの苦手さは、毎日毎日読ませることで、克服にはそれほど苦労はないと感じています。拾い読みである程度読めるようになったら、「続けて読みなさい」と指示します。すると、頭の中で一字ずつ読んで、それを、続けて口から発声するという工夫をするようになります。それがだんだんつながっていきます。川島隆太著 「『脳力』を鍛える音読練習帳 世界名作童話」(宝島社)は、どの話も3ページにまとめてあって、読みやすい量であることと、これを読むと、実際の童話を次に読みやすくなるので、好都合です。
こうして、読ませるためには、先に書いた計算障害克服でもそうですが、毎日1時間くらいは文句を言わずに集中して学習に取り組む姿勢を身につけておくことが大切になります。

漢字を書きにくい子どもによく出会います。ほとんどの場合、小学校1年生の漢字は書けるけども、2年生から書けなくなり、漢字が嫌い→国語が嫌い→勉強が嫌いという悪循環が起きています。この子ども達の眼球運動を見ると、寄り目が出来ない(両眼視が弱い)、追視できない(追従性眼球運動が弱い)、思ったところへ視線をとばせない(衝動性眼球運動が弱い)などの弱さを持っています。毎日、眼球運動のトレーニングに取り組んでもらうと、1ヶ月ほどでかなり改善し、このトレーニングは3ヶ月ほど続けると、だいたい、治った感じになります。油断しているとまた、戻ってしまう子がいますから、その後も時々はチェックすることが必要です。この眼球運動が改善すると、漢字を覚えることは簡単になります。書き障害というのは、ほとんどが、眼球運動に苦手さを持っている子であって、つまり、眼球の周りの筋肉の問題であるから、脳の機能に起因するような書き障害というのはないのではないだろうかと最近思ったりもします
(参考書:北出勝也他著「読むことは理解すること」山洋社)。
学習が出来ないことは、対人関係に苦手さを持っているPDD児達にとって、学校生活の不適応に直結すると思います。従って、学校任せにせず、親が、子どもの学習に責任を持って取り組むことはとても大切なことです。

「さぼる」という言葉は、怠けているという否定的な意味を持ちます。ところが、PDD児は、否定的な意味を持たない「さぼる」行動をとることがあります。
「スーホの白い馬」という教材があります。ある時、これを2年生の子どもに書き写させていました。「スーホの白い馬 おおつかゆうぞう作」で始まります。1ページ目を20回くらい書いた頃、教科書を閉じて、「はい、言ってごらん」と指示すると、「すーほのしろいうま」は言うのですが、作者の名前も言えないのです。他にもいろいろと特徴があったのですが、この子は、書き写してはいたのですが、読んでなかったのです。言葉は、文字の形、文字の読み、文字や言葉の意味という3種類の属性を持っているわけですが、この子は、形という属性とだけ付き合っていたのです。「スーホの白い馬を書きなさい」と指示されていたから、「すーほのしろいうま」は言えたのですが、作者以降は読まずに形だけを書いていたのです。知能指数は100を超え、日常会話は自由自在な彼ですから、そんなことは予想だにしていませんでした。シングルフォーカスとか、モノトラックなどと表現されてきた、PDD児の特徴ではあるのですが。
PDD児は、だいたい、作文が苦手です。だから、彼らの作文指導をするときは、ある程度は、こちらが文章を言ってあげることになります。こちらが言ってあげる文章を書くという形になるわけです。ところが、これを一旦始めると、全部言ってもらうと決めてしまい、全然考えなくなります。「えーっと」と自分が3回ほど言うと、先生が文章を言うからそれを書くというルールを決めるのだと思います。多分、悪意はありません。
計算の苦手さを持っている子どもに何枚も算数のプリントをさせていたら、ある時、たまたま、プリントの初めの数問の答えが同じでした。そうすると、次のプリントをもらった瞬間、問題も見ずに、答えを3問書いてしまう。これも、手を抜いたわけではないのです。答えはこれだと真理を発見したつもりだったのでしょう。