
療育は、





ために行います。



何歳からでも始められます。0歳、1歳代でも、あれ?この子、なんか気になるなあ、と思った瞬間から始めることができます。とにかく遊ぶことです。なかなか遊びに乗りにくいのが彼らですから、乗ってこなくても根気強く取り組むことが必要です。「こういうことを楽しいと思うことがいいんだよ」と教える気持ちを持つことが大切です。取り組むと良いのは、こしょぐり遊び、「たかいたかい」や「おうまさん」のような体を使った遊び、タオルブランコ、遊具を使った遊びなどです。こしょぐり遊びは、「一本橋こちょこちょ」などのような歌付きのこしょぐり遊びがわかりやすいです。タオルブランコは、大きなバスタオルを使って、中に子どもを入れて、大人二人で両端を持って、歌を歌いながらゆらゆら揺らしてあげる遊びです。公園での滑り台やぶらんこも、本人の好みに応じて、ゆっくりだったり激しくだったり、いろいろしてあげることが良いと思います。乗ってきたら、「もう1かい」と要求を言わせることも大切です。

まずは、大人との関係を整理してもらいます。子どもに、「自分は教えてもらう人(教えられる)」で、親や療育者などの大人は「自分に教えてくれる人(教える)」であるという「教える-教えられる」関係を学んでもらうことが最重要です。この関係の理解は、「褒めてもらうととてもうれしそうな顔をする」「褒められたいと思って、困難なことに挑戦する」という姿によって表現されます。療育の中身として、「名前を呼ばれたら返事をする」「立ちましょう」などの指示を聞くことも大切ですが、それだけでは、「教える-教えられる」関係の成立には不十分です。
「教える-教えられる」関係作りに重要なポイントは、注文を多くすることです。PDD児は、ある課題が出来るようになると、指示など聞かずに、昨日と同じやり方でどんどんやっていこうとします。あえてそれを変えます。昨日とは別のやり方をさせる。変えると、それで泣き叫ぶ子もいます。泣き叫んでも、じっくりやり方を教えて、最後までやりきり、そして、できあがりを大いに褒めます。形にこだわるのではなく、指導者からの働きかけに耳を傾けて、それを理解し達成して褒めてもらいたがる子にすることが大切なのです。だから、あえて、「これだけしたら終わりだよ」と前もって教えることはしません。発達には、なにより人間関係が大切です。
3歳を過ぎていたら、たいていのPDD児は文字を覚えることが可能ですから、文字を覚えていってもらいます。好きな電車の名前から始めてもいいですし、五十音パズルを「あひるのあ」「いぬのい」とか言いながらはめていっても良いでしょう。この「あひるのあ」といってはめていくと、「あ」という時を見て必ず「あひるのあ」と言ってしまい修正に苦労する子がいますが、これは、知的障害が残ってしまう子で時々見られる現象で、大きく発達させればそういう心配は必要ありません。

文字を覚えてくれたら、いろいろなカードや絵本などを使って、どんどん言葉を覚えていってもらいます。文字の学習が困難な子どもの場合は、簡単な色分け課題や幼児用のジグソーパズルなどに取り組んでもらいます。言葉は、公文のカードなどを利用し、最終的なまとめには「こどもことば絵じてん」(三省堂)を読んでもらいます。
このようなパズルや文字学習などは、出来たのか、あるいは、出来なかったのかということがはっきりしています。だから、褒めてもらったときに、何を褒めてもらったのかがわかりやすいという特徴を持っています。だから、それまで、「悪いことをして、こらっと叱ってもらう」という注意引き行動と呼ばれるものが、反応としてわかりやすいために、しっかり身に付いてしまって親を困らせていた子どもも、こうしたら褒めてもらえるということがわかると、良いことをして褒めてもらおう、悪いことをして叱られないようにしようという区別がわかり、行動が落ち着きます。
この関係の成立の前提として、①の愛着関係の成立はとても大切です。通常、ワークに取り組んでいく過程で、子どもの表情も良くなっていきますし、親も楽しくなるから親子で遊ぶことが増えるのですが、遊ぶことが極端に苦手な保護者の場合、あえて、遊びの指導もしなければならない場合もあります。

修学前くらいになると、運動の不器用さ、文字や数の習得の苦手さ(学習障害)がはっきりしてきます。また、苦手だけどがんばるということができるようになっていますから、足踏み、ケンケン、アヒル歩きなどの運動、国語と算数の先取り学習に取り組んでいきます。


さて、このような療育は、すべて保護者の方の同席の元に行います。なぜなら、療育の場所でだけ出来ても仕方がないですし、苦手な課題の克服の場合は特に、日々の練習がとても大切です。「先生の前ではするんですけど、家ではちっともしないんです」という親子関係のままでは、PDD児の発達は促されませんから、療育の場で出来たことを家庭でも出来るよう、しっかり同席して、学んでいただくのが正しい方法です。とは言っても、なかなか家では出来ない子もいます。そういう場合には、行動チャートで毎日チェックしてもらい、それを持ってきてもらっては、頑張るように励ますとか、毎日頑張って勉強したことを電話で報告するなどの方法をとる場合もあります。いろいろと工夫するわけですが、結果的に家庭だけで出来るようになっていくための援助です。
家庭でも、毎日同じ課題に同じやり方で取り組んでもらいます。ワークの中で中心的に行っている課題は、対人関係の学習であったり言葉の学習であったりしますが、どちらも、毎日学習してこそ、効果があります。週に1回や月に1回しても発達するときは勿論ありますが、それは、対人関係の姿勢を変えるときなどの質的な変化が見られるときだけであり、一人の子どもに何度もあるものではありません。その為、毎日の継続こそ命です。また、毎日出来る家庭では、ワーク以外のやりとりも、実行できているし、それまで、子ども主導で振り回されていた関係が、「親が教える-子どもが学ぶ」という親主導の新しい関係に変わっていきます。ここまで発達すると、家庭での遊びも楽しく展開できるようになります。遊ぶというのは、とても大切な親子の営みです。ワークができるだけで楽しく遊べないと、対人関係の発達が不十分で、課題だけができる、とても自閉症らしい高機能自閉症ができあがります。つまり、ワークは楽しくできないといけないということは、繰り返しになりますが、褒められたら喜ぶという対人関係の発達がワークの中で作られることが重要だということです。
家庭でもワークをと言うと、家でまですると子どもにストレスがかかりすぎるという批判を受けることがあります。しかし、褒められることが嬉しいことに気付いた子どもには、家庭でのワークは何らストレスにはなりません。むしろ、積極的にやりたい課題になります。なにせ、大好きなお母さんに褒めてもらえるのですから。遊びの関わりが苦手なご家庭だと、ワークはストレスになるのかもしれません。しかし、その場合でも、勧めます。少なくとも、やっただけ、子どもは賢くなりますから。その分、将来の選択肢が増えることになりますから。大幅に発達するのは、主に幼児期、せいぜい10才くらいまでです。ワークによるストレスと言っても病気になるようなストレスではありません。むしろ、必要なストレスでしょう。
初めて、相談に来られる方々の多くは、PDD児に振り回されています。その際にしていただくのが以下のようなことです。
何でも勝手にしてきてしまった彼らPDD児に、何事も勝手にさせずに、いちいち親とのコミュニケーションをとってからするよう要求してもらいます。勝手にテレビやビデオをつけていた子ども、勝手に冷蔵庫を開けてジュースを取り出していた子ども、勝手にお菓子の袋を破ってしまっていた子ども、あるいは、手の届かないものについては、親の腕をとってクレーンで要求していた子どもに、勝手には出来ないように環境を変えて、おうむ返しか、あるいは、カードを渡させるという形で要求をさせて、要求できたことをよく褒めながら叶えてやるようにします。”教えたらできるんだ”ということを理解していただくのに、とても効果的であると思っています。そんなことを教えたらいいと親御さんたちは思っていませんから、次回に来られたときに「教えたら出来るようになりました」と感動を持って報告していただくことがよくあります。ちなみに、この「カードを渡させて要求をかなえてやる」という方法は、数年前から「PECS」という名前が付けられて、あちらこちら研修会も開かれています。

以下の方法を用いると、おうむ返しでなく、きちんとした応答が出来る子どもがいます。 文字が読めることが前提ですが、質問を言いながら、青のボールペンで書きます。たとえば、「おなまえはなんですか?」です。いつもおうむ返しのこどもは、「おなまえはなんですか?」とそのまま繰り返してきます。そこで、赤のボールペンで「ぼくはやまだたろうです。」のように書いてやり、改めて質問を読み、その後、答えを指さして読ませます。そして、さらに練習させます。その練習をした後、「なんさいですか?」など、次の質問を青で書き、ボールペンを赤にして答えを書くスペースを指さしながら、答えを待ちます。すると、「4さいです」などの答えを言えるのです。
おうむ返しを言えるというところまで言語能力が達した後、すぐに会話まで発達していける子どもと、そこでやや停滞する子どもがいます。そして、停滞する子どものうち、やっとの思いでおうむ返しをいっている子どもと、もう一群に、質問の答えを考えるのではなく、「おうむ返しをしておいたらいいんだ」みたいに考えている子どもがいるのです。この方法を多用して、おうむ返しから脱却させて会話の世界へ連れていくことはとても大切なことだと思っています。

折れ線型の経過をたどるPDD児がいます。ある程度、健常発達のような経過を示しながら、1歳か2歳の頃に、気が付けば呼んでも返事をしなくなっているというような場合です。 相談に来られる方々には、PDDの遺伝についてはたいていお話しします。だから、きょうだいは要注意なので、意識的に連れてきていただくようにしています。観察していると、ある時はとてもPDDっぽく、また、ある時は健常児っぽかったりします。また、療育に通う子どもでも、すごく普通っぽくなってきたかと思うと、ある時、再び、PDDっぽく戻ってしまうということもよく経験することです。
お兄ちゃんに一生懸命関わっていて、妹をほっぽらかしていたら、妹が、PDDの世界に近くなり、これはいかんと、妹に一生懸命関わったら、今度は、せっかく良くなってきていたお兄ちゃんが、またPDDの世界にはまりこんでいっている。そんな感じです。
PDDは、生まれつきのものです。しかし、関わりによって、かなり大きく変化します。折れ線型の経過をたどる子どもの発達曲線が折れてしまった時期は、第2子の出産、引っ越しなど、ある程度子どもとの関わりが薄くなった時期と重なります。これが「発達のぶれ」です。PDDの素質を持っている子どもを、PDDの世界から、こちらの世界に連れてくるのも、あるいは、そのPDDの素質を開花させるのも、育て方が大きく影響するのです。定型発達の経過がある程度の期間あった子どもを折れ線型と呼び、0歳の時からずっと、PDDの特徴を持って育ってきた子どもを折れ線型と呼ばないだけで、どちらのタイプにも、発達のぶれは生じます。こちらの世界に可能な限り引っ張り込めるように、援助したいと思っています。

おおざっぱな言い方ですが、個別療育を進める中で、褒められたら嬉しいということがわかり、指導者の指示に従えるようになったら、集団療育に入れても大丈夫です。一対一で指示を聞けるようになったら、次は一対多(3から7名程度)で聞けるようになることが大切です。1対1で指示を聞けない子どもをグループにして療育をして、うまくいったためしがあまりありません。(グループが上手く動き出すと、1名くらいは1対1の指示の聞き方がまだ曖昧な子どもを入れても、聞けるようになっていくこともありますが・・) グループ療育に入れていくことと、知的に発達することが上手く重なると、5歳くらいから、勝つことへのこだわりが出てきます。一緒に学習させていて、早く終わったら帰れるとなると、先に誰かが帰ると大騒ぎになったり、先に仕上げようと必死になる。椅子取りゲームに負けると大騒ぎになるなどです。この騒ぎが5歳くらいに出てくると、言ってみれば療育は、まあまあ成功していると考えて良いでしょう。発達してなければこのようなこだわりは出てきませんから。「次に勝ったら大丈夫、次に頑張ったら大丈夫」と呪文のように繰り返し唱えながら、乗り越えさせていきます。集団療育でなければ獲得できないスキルです。