1 第2部 軽度発達障害児の行動修正及び自立援助
第1部 /第2部01/02/03/

a 軽度発達障害とは
軽度発達障害という言葉は日本に特有らしくし、今後は「軽度」をはずして「発達障害」と呼ぶという話もあるようですが、これも、異論があり、しばらく混乱は続くでしょう。ここでは、とりあえず、軽度発達障害という言葉を使い、”高機能広汎性発達障害(HFPDD)” ”注意欠陥多動性障害(ADHD)” ”発達性協調運動障害(DCD)” ”学習障害(LD)”軽度の知的障害(軽度MR)”をさすと決めておきます。通常学級にいて、特別な支援が必要な子ども達です。
第2部では、療育で知的な発達を達成した後どのように援助していくかという問題、そして、小学生になってから相談に来られる子ども達に対する対応の話になります。
 診断概念の混乱について
 診断に敏感な保護者に診断をどう説明するか
 どんな行動が問題とされて臨床の場に登場するか


 診断概念の混乱について
診断概念の混乱について 最近、幼児期の広汎性発達障害(PDD)の診断については10年ほど前と比べると、最近では、かなり全般に一致を見ることが多くなってきたように思います。しかし、まだ、学齢期の子どもについては混乱が見られるようです。
広汎性発達障害(PDD)と注意欠陥多動性障害(ADHD)と学習障害(LD)です。診断の混乱については様々な要因が考えられますが、一つは、日本とアメリカの文化の違い、そして、もう一つは、この分野での主導権争いのようなものが影響しているように思います。

ある日本人のアスペルガー者が『アメリカへ留学するととても楽しい人生を歩むことができたのが、日本に帰ってきたら不適応の連続』という話を、手記に記しています。
(資料:泉流星著「地球生まれの異星人 自閉者として日本に生きる」花風社)。
他種類の民族が混在していて自己主張と何から何まで細かく説明して当然というアメリカ社会と、ほぼ、一つの民族で、奥ゆかしく、空気を読みながら集団の調和を乱さぬように暮らすことが大切にされてきた日本社会では、診断基準である「対人関係の障害」も「コミュニケーションの障害」も基準がまるで異なって当然でしょう。
同じ子どもを”注意欠陥多動性障害(ADHD)”と呼ぶか、”広汎性発達障害(PDD)”と呼ぶかには、アメリカ流の診断を使うのか、アメリカ精神学会の診断基準であるDSMではあるけれども、翻訳とともに日本文化の中にそれをとけ込ませて解釈するのかという違いがあるように思いますが、日本流に解釈した診断基準の使い方が、日本の子どもにはより利益をもたらすと考えています。

こういう基準で見ると、注意欠陥多動性障害(ADHD)のみ診断基準を満たす子どもには、ほとんど出会いません。
”広汎性発達障害(PDD)のみ”か、”広汎性発達障害(PDD)+注意欠陥多動性障害(ADHD)”(正確にはこういう診断は認められませんが)となります。アメリカで注意欠陥多動性障害(ADHD)の本がたくさん出版されて、それが翻訳されています。すべてについて検討したわけではありませんが、日本では広汎性発達障害(PDD)児に役立つ内容になっていると思います。これから先の記述については、特に診断名にこだわらず、「記述されている症状を持った子ども」について書いてあると考えていただければと思います。

また、多動とは何かということの本質の問題ですが、フラフラしていたら多動かというと、そうではないのです。現象は同じですが、広汎性発達障害(PDD)の子どももフラフラします。それは、その時その場で、椅子に座っていなければならないということの理解がない、そして、立ち歩いたときに、周りから見てそれがどう写るのかということを考えるという視点がないということにより、平気でフラフラできるわけです。これが広汎性発達障害(PDD)のフラフラのメカニズムです。注意欠陥多動性障害(ADHD)の子どもの場合には、フラフラしていい場面かどうかの理解も、それを周りがどう見ているのかということの理解もできています。しかし、身体が止まらないわけです。広汎性発達障害(PDD)も注意欠陥多動性障害(ADHD)も両方とも持っている場合が多いのですが、このような観点は大切です。

 診断に敏感な保護者に診断をどう説明するか
我が子に○○障害などという診断はついてほしくないのは保護者の気持ちとして当たり前のことです。診断めいたことを話すと「うちの子は普通です」とかたくなになられ、その後、話を聞いてくれなくなる保護者は確かにいらっしゃると思います。保護者が診断を受け入れてくれれば、問題の整理もしやすいし、親も覚悟を決めてくれて、その後のつきあいも楽になるので、診断というものは便利なものだと思いますが、デリケートな方には、特に触れずに具体的な症状の改善にどんどん取り組んで頂いています。具体的な困りごとは保護者の方も悩んでおられます。特に学習の不達成は共感していただきやすい問題です。こちら側からの援助プランが成功していくと、自然に診断の話題に入っていけます。保護者の方から話をそちらへ持って行かれることもよく経験するところです。

 どんな行動が問題とされて臨床の場に登場するか
上記のような軽度の発達障害を持っている子どもが全て問題行動を呈するわけではありません。その中の一部の子どもだけが、困った行動を示します。対応が良ければ彼らはとてもよい子として学校生活に適応します。

授業中の問題
a.立ち歩くかどうか。教室を出ていくかどうか。
b.お絵かきや、漫画を読むなど勝手なことをしているかどうか。
c.独り言や、勝手喋りが多いかどうか。

先生の指示について
d.全体への指示で聞けるか、個別の指示が必要か。
e.掃除を真面目にするかどうか。

対人関係
f.対人関係で孤立していないか。
g.対人関係で暴力暴言があるかどうか。
h.いじめられるか。
i.他児の何気ない発言を被害的に受け取って騒ぐか。
j.他児を注意しすぎるか。

コミュニケーション

k.コミュニケーションがスムーズにできるか。勝手喋りではないか。
l.流暢に話せるか。
m.目を見て話せるか、話を聞いているか。

こだわり
n.偏食があるかどうか。
o.勝てないと騒ぐかどうか。
p.100点取れないと騒ぐかどうか。

学習について
q.四則演算がスムーズにできるかどうか。
r.文章題はどうか。
s.読み、書きについて、ズムーズにできるかどうか。
t.眼球運動の問題はないか。

注意力の問題
u.忘れ物は多くないか。
v.整理整頓についてはどうか。

運動
w.全身運動はズムーズかどうか。
x.手先の運動は器用にできるか。
y.親との関係 親の指示を聞けるかどうか。

その他
z.嘘をつくかどうか。
az.爪噛み、爪むしりはどうか。